法人成りとは

「法人成り」とは、個人で営んでいた事業を会社で営むように変更することです。
個人事業が会社組織(=法人)に成るということで「法人成り」と呼ばれます。

税金対策や信用力を上げるため、助成金活用など、法人成りの目的は様々です。

法人成りと聞けば仰々しくも感じますが、やっていること自体は個人事業のときと何も変わりません。

ただご注意いただきたい事がありますという、本日はそんなお話です。

銀行融資における注意点-手続き-

個人事業(以下、「個人」)で銀行から融資を受けている場合、

法人成りをする際には事前に借入先の銀行に連絡されることをおすすめします。

というのも、個人と法人は法律上は別の人格になるためです。
要は赤の他人なのです。

たとえ、個人の方が
・法人の社長になっても、
・筆頭株主になっても、
個人と法人は相容れません。

赤の他人であることに変わりはないのです。

社長からすれば、やっていること自体は何も変わっていないのに、
と仰りたいところでしょうが、法律上はそうなっているのです。

よって、
・個人で使っていたモノ(店舗やパソコンなど)、
・個人で借り入れていた銀行融資、

これらは個人とは別の法人に渡したと考えることとなります。
(賃貸借という考え方は省略しています)

銀行からみると、
融資先自体が変わってしまうということになりますので、把握しておきたい事項です。

よって、銀行には法人成りを行う前にその旨の連絡をしておきましょう(^^)

この際、個人の既存融資は、
⑴個人が引き続き返済を続ける
⑵個人で完済し、法人が同額借換を行う
⑶法人が個人の融資を引き受ける

のいずれかのケースになります。

この判断は、借入先の金融機関次第となります。

例えば税金上のメリットを受けられる⑶を想定していたものの、
銀行から断られてしまう可能性もあります。

よって、法人成り前に銀行に取扱いや必要な手続き確認されておくのがベストです。

銀行融資における注意点-税金-

タダで法人が融資の肩代わりをしてはいけません

例えば、法人成り時点で個人で500万円の銀行融資残高があったとします。

この融資残高500万円を法人が引き受けた場合は、
同額の500万円の現金預金も、個人から法人に支払う必要があります。



具体的には、個人口座から出金して法人口座に入金するというお金の流れを記録するのがベストです。

もし、同額の500万円の現金預金を個人から法人に渡さなかったらどうなるでしょうか?

個人は500万円の借金から免れた、と税金は考えます。

これは、500万円の利益と同義になります。
よって、個人において500万円の利益に対し税金がかかります。

また同時に、会社においても500万円が個人に対する寄付になるとみなされる可能性が高まります。

詳細は省略いたしますが、もし寄付金ということになれば、この500万円のうち会社の経費にならない部分が出てきます。

要は、知らずに500万円を法人がタダで引き受けてしまうと、
個人でも法人でも、本来払う必要のない税金を納める必要が出てきます。

銀行融資における注意点-今後の融資に備えて-

役員報酬の適正な設定

先ほどの例で、個人で借り入れた500万円を法人に引き継いだ場合は、
同額の500万円の現金預金を個人から法人に支払う必要があるとお伝えいたしました。

ただ、そんなまとまった金額があることの方が少ないのではないでしょうか。

その場合は、一括で支払う必要はありません。
分割して少しずつ、個人から法人に支払を進めていけば問題ありません。

このように分割返済をする場合にご注意いただきたいのは、
役員報酬を適切額で設定することです。


少し分かりづらいので、具体例でお伝えします。

【前提】
・社長の役員報酬:50万円/月(手取り40万円)
・社長の生活費:40万円/月
・個人から法人へ引き渡した借入金500万円の分割返済額:8.5万円/月


この場合、毎月の分割返済額の8.5万円の返済原資は何になるでしょうか?

そうです、それは社長の役員報酬です。
厳密には役員報酬のうちの手取り40万円です。
ここからさらに8.5万円/月の返済を行うということです。

よって、分割返済が始まると、生活費は31.5万円/月になるというわけです。

毎月8.5万円生活費が少なくなれば、その中でやりくりができない月もでてくるでしょう。

では、役員報酬を上げればいいのでは?
と考えられるかもしれません。

この考え方は正しいです。

ただ、時期にはご注意ください、と一言申し添えておきます。

なぜなら、役員報酬を新しい期が始まってから3か月を超えて変更した場合は、
経費にできない部分が出てきてしまうのです。

つまり、税金で損をします。

では、もう役員報酬が変えられる時期を超えてしまった場合はどうでしょうか。
役員報酬を増額させる手は使えません。

社長個人で返済資金を確保しているなら問題ありませんが、
返済資金がない場合は法人からお金を借りて、
借りたお金で返済を行うこととなるでしょう。

そうすると、法人の決算書には「社長に対する貸付金」が載ることとなります。

この貸付金は、銀行融資の際に非常にやっかいもの扱いをされます。

法人を通した社長個人への迂回融資とも考えられ、融資審査においては減点要素となります。

また、社長への貸付金であっても、先ほど申しあげたように
社長個人と法人は別人格ですから、貸付金に対して適正な利息を受け渡しする必要も出てきます。

ずっと社長に貸しっぱなし、返済計画もなし、利息もなしでは、
税金上は役員賞とみなされ、これもまた税金で損をすることとなります。

まとめ

本日は法人成りにともなう銀行融資のポイントをお話いたしました。

個人で借りていた銀行融資が法人成りによってどのような取扱いになるのか
事前にお分かりになっていると安心です。

それぞれの金融機関によって判断が異なる事もありますので、
事前確認されておくのも良いでしょう。

また税金面で損をされないように税理士に相談されてみるのもお勧めです。

編集後記

添付の写真は近所の田んぼです。
この時期になると、夜にカエルの大合唱です。
結構大きな鳴き声ですが、なぜか睡眠の妨害になったことは一度もありません。
睡眠に関しては、我が家でママはのび太(=3秒で寝る)と言われているくらいだからかもしれません(^^;
夕方には小学生がオタマジャクシを釣ったり、なんとものどかです(ここは一応横浜市です)。
自然に囲まれた雰囲気がなんとも心地良く、田舎出身の私には最適です。

横浜市緑区の女性税理士。 お金と利益をしっかり残す経営を サポートいたします。 銀行融資、経理、クラウド会計が得意。 税理士だけど、税理士らしくない。 親切丁寧なサポートを心掛けています。 お客様と一緒に成長していくことが私の想いです。 趣味は ・ランニング ・読書 ・料理 ・パン屋さんめぐり。