基本は還付、追徴されてしまう場合は理由を確認
「年末調整」とは、
1年間の給与総額が確定する年末にその年の税額を正しく計算し、
毎月の給与から徴収した税額との過不足額を求め、その額を徴収又は還付する手続きのことです。
年末調整は勤めている会社が行うものです。
会社勤めの方は、その年の最後(通常12月支給の給与)の給与明細に
「年末調整還付追徴額」などという項目で年末調整が行われます。
年末調整には、「還付」と「追徴」の2つのケースがあります。
「還付」は、納め過ぎた税金が戻ってくるもの。そのため、給与に加算されて支給されます。
「追徴」は、足りない税金を徴収するもの。給与から控除されて支給されます。
年末調整では基本的には、還付になります。
これは給与をもらう人の個々の事情に鑑み、所得から一定額を控除する仕組み(所得控除と言います)
が年末調整により行われることが原因です。
配偶者控除や扶養控除という名前を聞いたことがある方もいると思いますが、
これらも所得控除の一種です。
基本的には還付になると書きましたが、「追徴」になる場合があります。
年末調整は、給与をもらう方の1年間の税金を正しく計算し、清算する手続きですので、
「還付」でも「追徴」でも、それによって得をする、とか損をするということはありません。
ただ、基本的に「還付」になる手続きで、もし自分が追徴になってしまったら?
その理由は具体的に知りたいものです。
年末調整の際には、その年の「源泉徴収票」が発行されますが、
そこから「追徴」になった理由を読み解くことは難しいです。
では、どのような場合に、追徴になるのでしょうか。
追徴になるケース①扶養人数が年の途中で減少した
年の途中で扶養人数が減少した場合、年末調整で追徴になる可能性があります。
毎月の給与から「源泉所得税」という名前で、
所得税が控除されているのは知っている方が多いでしょう。
この所得税は、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を基に計算されます。
給与所得の源泉徴収税額表は、
給与の支給額別にその人の扶養親族等の数に応じた源泉所得税が記載されています。
扶養親族等とは、一定の配偶者や、16歳以上の一定の親族などが該当します。
扶養親族等が多ければ多いほど、源泉所得税の金額が少なくなり、
扶養親族等が少ない場合は、源泉所得税の金額が多くなります。
これは、扶養親族等が多くなるほど、その方が養う家族が多くなることに配慮しているためと考えられます。
もし、年の途中で就職し配偶者が扶養親族等でなくなった場合はどうでしょうか。
就職前は配偶者が扶養親族等に該当するので、扶養親族等の数は1人ですが、
就職後は0人になります。
扶養親族等が少なくなるので、配偶者の就職前より就職後の方が源泉所得税が多く徴収されることとなります。
年末調整は、12月31日のその人の状況を鑑みて行うことになっていますから、
上記の場合、1年を通して扶養親族等の数は0人ということになります。
そうすると、配偶者の就職前の期間に収めていた源泉所得税は、
扶養親族等の数が1人に基づくものですから、
結果として源泉所得税が少なく計算されていた期間が生じ、追徴になります。
追徴になるケース②賞与の額が大きい
給与に比べて賞与の額が大きい場合も追徴になる可能性があります。
賞与からも源泉所得税が控除されていますが、
賞与の場合、前月の給与をもとに源泉所得税の金額が計算されます。
賞与の場合の源泉所得税は、
①前月の給与が少なければ少ないほど
②扶養親族等の数が多いほど
引かれる源泉所得税が少なくなる仕組みです。
例えば、同じ年収500万円のAさんとBさんの内訳は次の通りです。(その他の条件も同じとします)
Aさん 給与360万円(月額30万)、賞与140万円です。
Bさん 給与240万円(月額20万)、賞与260万円です。
Aさんの給与(360万円)から引かれる源泉所得税は、年間約10万円。(①)
Bさんの給与(240万円)から引かれる源泉所得税は、年間約5.7万円。(②)
給与が多いAさんの方が、引かれる源泉所得税が多くなります。
一方で、
Aさんの賞与(140万円)から引かれる源泉所得税は、約11.5万円。(③)
Bさんの賞与(260万円)から引かれる源泉所得税は、約10.6万円。(④)
ここでは、賞与の金額が大きいBさんの方が引かれる源泉所得税が少なくなります。
この理由は、前月の給与がAさん(30万円)よりBさん(20万円)の方が少ないからです。
先ほど述べたように、賞与の場合の源泉所得税は、
①前月の給与が少なければ少ないほど
控除される金額が少なくなるのです。
でもこれでは、Aさんが損をしますね。
同じ年収なのに、納める税金が異なってはなりません。
そこで行われるのが所得税の精算=年末調整です。
年末調整の結果、Aさん、Bさんの所得税が20万円だった場合、
Aさんは、20万ー①ー③=△1.5万円
Bさんは、20万ー②ー④=3.7万円
となり、年内最後の給与でAさんは1.5万円が還付され、
Bさんは3.7万円が追徴されることとなります。
つまり年末調整により、Aさん、Bさんとも同じ所得税に精算されることになります。
事例を簡単にしましたが、考え方の基本は
AさんとBさんは給与と賞与を合計した年間支給額が同じであるので、
所得税の金額も同じであるはずです。
ただし、毎月の給与と賞与の支給額の差が大きいBさんの場合、
賞与特有の源泉所得税の計算方法が原因で、賞与から引かれる源泉所得税が低く計算され、
結果として年末調整で追徴されてしまったということになります。
追徴になるケース③転職前後で給与締め日・支給日が異なる
年の途中で転職した場合、
転職前後の会社で給与の締め日・支給日が異なると追徴になる可能性があります。
例えば、以下のような場合です。
転職前のC社の給与 月末締め、翌月25日支給(1月分の給与が2月25日に支給)
転職後のD社の給与 月末締め、当月末日支給(1月分の給与が1月31日に支給)
仮に、1月15日に転職したとします。
そうすると、1月以降は次のとおり給与を受け取ることになります。
1月25日 転職前C社の12月分給与
1月31日 転職後D社の1月15日~31日分の給与
2月25日 転職前C社の1月1日~14日分の給与
2月28日 転職後D社の2月分給与
3月31日 転職後D社の3月分給与
1月と2月は転職前後の会社(C社とD社)それぞれから給与が支給されることになります。
それぞれの給与から引かれる源泉所得税は、先に述べた「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」
によって計算されます。
給与所得の源泉徴収税額表(月額表)は、
月額の給与をもとに源泉所得税を計算するものなので、
同じ月に2社から給与の支給がある場合には対応していません。
例えば、1月の支給金額が以下の場合の源泉所得税を計算してみると、
C社 給与15万円→源泉所得税 約3千円
D社 給与30万円→源泉所得税 約8.5千円
源泉所得税の合計は11,500円になります。
では、C社とD社の給与を合算した場合の源泉所得税はどうでしょうか。
C社とD社の給与合算額 45万円→源泉所得税21,560円です。
それぞれの会社から支給された場合(11,500円)と合算した場合(21,560円)では、
源泉所得税の引かれる金額に約1万円の差が生じます。
これは、所得税が超過累進税率(たくさん給与をもらう人ほど高い所得税が課される)
の考え方に基づくことが原因です。
しかし、同じ給与なのに税金が異なるのは公平性に欠けますね。
同じ給与であれば、同じ税金になることが基本ですから、
この場合も、年末調整により不足額していた税金が徴収されることになります。
転職前後の会社の給与の締め日・支給日はその会社の給与規定上致し方ないのですが、
例のように、期間を空けずに転職した場合、転職前後の会社の締め日と支給日が異なると
源泉所得税が追徴されることとなってしまうのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
年末調整は基本的に還付(給与に加算)されるものです。
もし年末調整により追徴(給与から控除)されてしまった場合、
その理由を検討することができれば納得感がありますね。