「中小企業倒産防止共済制度」(経営セーフティ共済)をご存じでしょうか。
その名の通り、中小企業が取引先の倒産に伴う連鎖倒産に備えるための共済制度です。
共済制度のほか、節税効果を期待して加入される方が多い制度でもあります。
運営主体は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(国が全額出資)ですので、安心感があり、加入企業は年々増加しているようです。(2022年3月時点で約59万社)
制度の概要
取引先が倒産し売掛金の回収が困難になったときに、無担保・無保証人で借入れが可能です。
借入可能額は、共済金掛金の最高10倍(上限8,000万円)です。
また、取引先の倒産の有無にかかわらず、臨時的な事業資金の借入も可能です(解約手当金の95%が限度)。
さらに掛金の全額を支払日の属する事業年度に損金算入できるという税務メリットを受けることも可能です。
加入のメリット
掛金を損金、または必要経費に算入できる
掛金は損金(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)にできます。
「掛金×税率」の分だけ節税になるということです。
掛金の額は、月額5,000円~20万円まで5,000円刻みで自由に変更可能です。
法人の場合、年間掛金240万円(最大月額掛金20万円×12か月)を拠出すると、税率は概ね25%-35%のため、60万円~84万円ほどの節税効果があるということになります。
また、掛金は翌1年分の前納が可能です。
そのため、決算が近づき着地の見通しが立ってから、利益の出方に応じた掛金を設定することが可能です。
例えば、着地見込みが250万円の黒字の場合、掛金を240万円に設定すると黒字は10万円になりますし、
もう少し黒字化させたいというのであれば、掛金を120万円にして黒字を130万円にするということが可能です。
なお、掛金は累積800万円に達するまで拠出可能です。
取引先が倒産後、すぐに無担保・無保証人で借入可能
取引先の倒産が確認された後、すぐに借入が可能です。
借入可能額
①と②のいずれか少ない金額になります。
①被害額
(回収が困難になった売掛金の額です。倒産した取引先への買掛金がある場合は被害額と相殺されます。)
②掛金総額の10倍
返済期間・返済方法
6か月の据置期間経過後、返済が開始します。借入額に応じて以下の通りです。
借入額 | 返済期間 (6か月の据置期間含む) |
返済方法 (6か月の据置期間含む) |
5,000万円未満 | 5年 | 54か月・均等分割 |
5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 | 66か月・均等分割 |
6,500万円以上8,000万円以下 | 7年 | 78か月・均等分割 |
利率
共済金の借入れは無利子です。
ただし、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されますので、実質的な利子と考えられます。
例えば、掛金拠出総額300万円・借入額500万円の場合、50万円(借入額の10%相当額)が掛金から控除されます。
掛金拠出額は250万円となり、50万円が実質的な利子相当額になります。
つまり、利率10%の借入金と考えることができます。
日本政策公庫や民間金融機関からの融資に比較すると高い利率といえます。
臨時的な資金の借入も可能
取引先が倒産していなくても、臨時に事業資金が必要となった場合、一時貸付金として融資を受けることができます。
一時貸付けを受けるには、12か月分以上(前納は除く)掛金を払い込んでいる必要があります。
概要は以下の通りです。
借入限度額
返済期間・返済方法・利率
返済期間 | 1年 |
返済方法 | 期限一括償還(返済日に元金を一括して返済する方法) |
利率 | 0.9%(利息が借入金額から差し引かれます。) |
解約手当金が受けとれる
払い込んだ掛金は解約手当金として戻ってきます。
40ヶ月以上納めることで100%戻ってきますが、40か月未満の場合は掛金の拠出月数と解約理由に応じて目減りします。
※「機構解約」を理由にする場合の返礼率は95%ですが、ほとんどの場合「任意解約」になるため、考えなくて良いでしょう。
※任意解約…共済契約者が任意でいつでもきる解約
みなし解約…個人事業主の死亡や法人の解散などによって解約とみなされる場合
機構解約…12か月以上の掛金の滞納、貸付けなどに不正行為があった場合に中小機構が行う解約
加入のデメリット
解約手当金は課税対象
解約手当金を受取った時に、法人も個人事業主も受取額全額が課税されます。
掛金を支払った時に経費にできることとの表裏の関係といえます。
さらに掛金が自由に変更できる点と異なり、解約手当金は一括受け取りのみです。
積立可能上限額の800万円を解約した場合、800万円全額が一括で課税対象になるというわけです。
解約を行った事業年度が黒字決算の場合、800万円分の黒字が増すことになります。
資本金1億円以下の中小法人の場合、所得が800万円を超えると税率があがりますので、場合によっては節税効果以上に税金が増してしまうこともあるということです。
効果的な節税のためには、制度加入時に解約手当金の受け取りまでを見据えたうえで加入の検討を行うことが必要です。
例えば、役員や従業員の退職金の支払いなどで赤字になる事業年度で解約を行うと解約手当金との相殺が可能です。
資金繰り
掛金を支払い始めたら、基本的に次のケースに該当しない限り掛け止めができません。
- 掛金総額が掛金月額の40倍に達した場合
- 掛金総額が上限の800万円に達した場合
つまり、掛金の拠出開始から40か月間は手を付けられないお金になってしまうことに注意が必要です。
40か月以内に解約することは可能ですが、元本割れとなってしまいます。
節税対策だけに焦点をあてて加入してしまうと、資金繰りの切迫を引き起こす可能性もあることに注意しなければいけません。
注意する点
制度の細かな注意点を箇条書きにします。
- 加入には制限がある
業種別に、資本金または従業員数に応じた加入要件があります。
要件に該当しない場合は、加入資格がありませんので制度への加入ができません。
詳しくは、中小機構のサイトをご確認くさだい。
(参考)経営セーフティ共済の加入資格
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/eligibility/index.html
- 個人事業の場合、対象者は事業所得のみ
個人事業の場合、事業所得以外の収入(不動産所得等)には、掛金を必要経費にすることが認められません。
- 事業開始後1 年以上経過していなければ加入不可
- 掛金を損金(法人の場合)または必要経費(個人の場合)にする場合は、確定申告書に一定の明細書の添付が必要
法人の場合…「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」と「適用額限度明細書」
個人事業主の場合…「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」
- 前納する場合は引落日に注意
節税対策として決算月に先1年分の掛金を前納する場合は注意が必要です。
掛金は支払った月に損金(または必要経費)にできますが、前納には期限内の手続きがあらかじめ必要です。
もし期限後に手続き行ってしまうと、支払が翌期になってしまい、当期の損金(または必要経費)にはなりません。
前納申出書は、前納を希望する月の 5 日(土曜・日曜・祝日の場合は翌営業日)までに、中小機構が受理することが必要となります。
12月決算の法人であれば、12月5日までに申出書を提出すれば、12月27日(27日が休日の場合は翌営業日)に前納掛金が振替になります。
12月6日以降に申出書の提出をしてしまうと、振替日は翌年1月27日になりますので、当期の損金(必要経費)にはできません。
- 共済金の借入要件
加入後6か月以上を経過し、かつ6か月分以上の掛金を納付していることが必要です。
また、取引先の倒産日から「6ヶ月以内」に共済金の貸付請求、書類一式を提出することが必要です。
いかがでしたでしょうか。
倒産防止共済の加入の際は、メリット・デメリットを十分把握したうえで加入の検討を行うのが良さそうです。
特に、節税効果を目的にした加入の場合は、出口戦略と資金繰り計画もセットで検討する必要があるといえるでしょう。